審美の基準 第二弾〜もし正中がずれていたら??
前回は基準としている正中がそもそもみんな合っているのか、合わせることに意味があるのか、ということを論文をもとに解説しました。今回も関連して、もし正中がずれていたらそれは全部なんとかしないといけないのか、について解説します。
今回紹介するのは
1999 KokichによるComparing the perception of dentists and lay people to altered dental esthetics.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10825866/
この論文では前歯のサイズと配列、そしてそれらの周囲軟組織との関係がどの程度の「ズレ」で違和感を覚えるのかを調査しました。
研究には一般人、矯正医、一般歯科医が参加し、笑顔の写真に対して、
①歯の長さ
中切歯の長さを0.5mm刻みで減少。
一般人は2mm、一般歯科医師は1.5mm、矯正医は1mm歯が短くなった時点で違和感感じました。
②歯の幅
側切歯の幅を1mm刻みで減少。
一般人は4mm、一般歯科医師と矯正医は3mm幅が減少した時点で違和感を感じました。
意外と気づかないものですね。
③歯の傾き
切歯を患者の右側に向かって1mmずつ傾斜。
全てのグループが2mmの傾きの時点で違和感を感じました。
④正中
歯列正中を1mm刻みで患者の左に移動。
4mmの移動で矯正医のみが違和感を感じました。一般人、一般歯科医師は違和感を覚えませんでした。
⑤ブラックトライアングル
中切歯コンタクトポイントを切縁に向かって1mm刻みで移動させてブラックトライアングルを作り出したところ、
一般人、一般歯科医師は3mmの時点で、矯正医は2mmの時点で違和感を感じました。
⑥ジンジバルレベル
側切歯歯肉縁を0.5mm刻みで移動。いずれのグループも違和感を感じませんでした。
⑦切歯平面
上顎前歯部を中切歯切縁鼓形空隙の中点を基準に1mmずつ回転。
一般人は3mm、一般歯科医師と矯正医は1mmの回転で違和感を感じました。
⑧歯肉の露出量
上唇から歯肉縁までの距離を2mm刻みで増加させていき、ガミースマイルを作り出したところ、
一般人と一般歯科医は4mm、矯正医は2mmの歯肉露出を「審美的ではない」と判定しました。
上記結果のまとめが以下です。
いかがでしたでしょうか?
上顎歯列正中が仮に顔面正中からずれていたとしてもあまり違和感を覚えないことがわかります。
一方で歯の傾きや切歯のおりなす平面の傾きがあると、一般人でさえ容易に気付きうるものです。
ですので正中が厳密に合っているかに注力するよりも、歯の傾きや対照性を優先した思考回路でいた方が治療による患者満足度は高くなりやすいでしょう。とはいえ、どこまでこだわるのか、また何をもって審美とするかは患者さんの希望もありますので、十分なコミュニケーションが必要です。ただし上記のような情報を持っていれば患者さんとの相談の中において自分の武器となるでしょう。
特に前歯部審美領域の治療においてはドミナンスという言葉もあり、いかに人の目に最初に入るところを意識するかが重要です。この話は長くなるのでまたの機会にしたいと思います。
ただしこの研究で傾きの評価に用いられたのは「口元の写真」であって、顔貌に対する傾きではないことには注意が必要です。我々が診療する際には、まずはマクロな視点で顔貌とのバランス、そして口唇とのバランスという順でフォーカスしていくことが重要です。
この文献では上顎歯肉の露出量、つまりはガミースマイルの評価もしていましたが、そもそもなぜガミースマイルになる人がいるのでしょうか?ガミースマイルはどうすれば治るのでしょうか?
ここらへんを次回は深掘りしていきたいと思います。