インプラントオーバーデンチャーに必要な条件とは?
今回はインプラントを用いた義歯、インプラントオーバーデンチャーについてです。(前回の投稿最後に記したガミースマイルについてはいずれ投稿予定)
無歯顎に対する治療選択としてはコンベンショナルな総義歯だけではなく、インプラントを用いた可撤性の補綴装置であるインプラントオーバーデンチャー(以下IOD)、固定式のハイブリッドなどを用いたall on 4を代表とするいわゆるall on X、そしてインプラントブリッジがあります。
C. MischのDental Implant Prostheticsでは無歯顎に対する治療選択をFP1/FP2/FP3/RP4/RP5と分類しており、IODは多くはRP5に該当します。
IODは無歯顎に対して有用な1つの選択ですが、補綴装置の失敗を日常臨床ではたまに見かけます。
今回はそんな失敗がなぜ起こるのか、IODに求められる条件に関するトピックをご紹介します。
この論文では下顎の2-IODの治療に際して失敗症例を通じて外科的な計画、そして補綴的な計画の考察を行なっています。
IODではアタッチメント部分で義歯のための補綴スペースに問題があるとオーバーカントゥアな補綴、過剰な咬合高径、アタッチメントに接する歯の破折、義歯からアタッチメントがとれる、義歯破折、全体的な患者満足度低下など、様々な問題が生じます。
まさにこのケースでも左のアタッチメントは壊れ、義歯はパーフォレーションし、舌側へのオーバーカントゥアが起こり、それはインサイザルエッジの高さまできている状態です。
また2本のインプラントは近遠心的にも頬舌的にも傾斜しており、またその位置は犬歯の位置にあり、異なる高さで、かつどちらも高すぎです。
どうしてこのような結果となってしまったのか、補綴スペースの分析をしてみます。
この症例では現状で補綴スペースアナリシスから義歯概形と歯槽頂で2ミリ、ボーンサウンディングから2ミリの歯肉厚みであり、合計4ミリの補綴スペースしかない状況です。
では本来アタッチメントにロケーターを用いた場合のIODに必要な補綴スペースとはどれくらいなのでしょうか?
その答えはどういうシステムで治療をするかによって変わります。
ここではストローマンインプラントのSPでロケーターアタッチメントの場合を示します。
この論文上では骨から垂直的には8.5mm、水平的には9.0mmとされています。
ですので遊びを考えると10mmのスペースを確保するようなプランニングをしておくと良いでしょう。
これはアタッチメントによっても変わり、他の文献では例えばバーであれば13-14mm、ボールでは10-12mmのスペースが必要とされています。
また今回はIODについてでしたが、固定式補綴装置にもそれぞれ必要なスペースは違いがあり、また上部構造のマテリアルによっても変わります。もちろんどういう選択をするかは補綴スペースだけでなく、コストや審美性、修理のしやすさなど色々な観点で考える必要があります。
この状況からどうリカバーしていくかというと、
1つ目は咬合高径を挙上することで補綴スペースを確保する方法がありますが、咬合高径の変更ができるのかは診断が必要になります。(咬合高径にまつわるトピックも需要があればいずれ投稿します)このケースでは患者が挙上を受け入れられなかったため、できませんでした。
2つ目の方法は既存のインプラントをサブマージして新たに埋入するという方法でしたが、新たに埋入するインプラント部分の補綴スペースのために歯槽骨整形をすると、どうしても既存のインプラントの周囲と骨のステップを形成してしまうため現実的でないと判断されました。
結果的に3つ目の方法としてトレフィンバーで既存のインプラントを一旦除去してから、きちんと骨整形を行い、適切な補綴スペースの確保を行なってから再埋入となりました。
つまりはじめからやり直しということですね。
適切な治療計画のもと治療を行わないと、このような失敗を生んで患者に不利益を被ることになるため、誰もが知るべき重要なトピックでした。
いかがでしたでしょうか?
現在まさにこのような下顎2IODのケースが途中ですので、機会があれば実際の症例も提示していきたいと思います。
それではまた。